【読者さんからの質問】医薬品卸にとっての『最低原価』とは何か?

MSと業界用語

こんにちは、元MSのヒサシです。

ある読者さんから【問い合わせフォーム】を通じて以下のような記事作成の依頼メッセージを頂きました。

ヒサシ様

いつも楽しく拝見させて頂いております。

元MRです。

地方ではMSと共闘し数字を上げたり、都心ではMSと合わずに低迷したりと、MR人生には常にMSの存在がありました。

記事のテーマですが、「最低原価」について書いていただければ嬉しいです。

卸や地域によって呼び方は違いますが、ネット価、リミット価、卸の頭文字を取ってS価格やT価格と呼ばれていました。

得意先に最低原価以上なら買わないとか、卸からギリギリだから補填してほしいとか、色々な相談がありました。

(中略)

地方にいた時ですが、薬剤部としてもできる限り先発品を使いたいが病院へ示しがつかないため、その価格(最低原価)まで下げてくれ。

そして、メーカーは卸が自腹を切らないように、割った価格を補填してくれ。

もしくは卸に入れてくれ、の様な形でした。

薬価改定の度に毎回の交渉が必須でした。

おそらく田舎の悪しき伝統であったかと想定されます。

三方良しとは言い難いですが、口座を維持できることは大きかったです。

もし可能であれば、ご作成頂けましたら嬉しい限りです。

宜しくお願い致します。

さて、皆さんは『最低原価』という言葉を普段から使っているでしょうか?

私自身はですね、実はMS時代に『最低原価』という言葉を使ったことがないです。(汗)

ヒサシ
ヒサシ

読者さんのメッセージにある通り、最低原価に該当するような“その卸独自の呼び方”はありましたけどね!

ところで、この最低原価とは何なのか?

すごく簡単に言うと『医薬品卸にとって赤字とならないギリギリの販売金額』を指す言葉です。

(※ここでの販売金額とは、医薬品卸から取引先に薬を販売するときの“納入価格”のことです!)

MSは普段から取引先との価格交渉を行っていますが、この最低原価という概念に苦しんでいる人も多いのではないでしょうか?

取引先からの値引き要求がキツく、最低原価で販売せざるを得ない。

そんなことは往々にして起こり得ます。

少なくとも、私はMSだった頃にそのような場面を幾度となく経験しています。(汗)

そこで、今回は私自身のMS経験に基づいて、医薬品卸における最低原価を取り巻く事情について綴っていこうと思います。

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初めに:『原価』って何なの?

このブログは新人のMSさん、あるいは学生さんも見てくれていますので、まずは原価という概念について簡単に解説させてもらいます。

すごく簡単に言うと、原価とは『製品やサービスを顧客に提供するまでにかかる費用』を指す言葉です。

付け加えると、実は卸売業と製造業とでは原価の定義が異なります。

(※卸売業・製造業について医薬品業界内で例えるなら、こんな感じです。)

・卸売業⇒医薬品卸

・製造業⇒製薬会社

さて、卸売業・製造業の原価は、それぞれ何がどう違うのか?

読者さんから頂戴した質問内容も踏まえて、これについても噛み砕いてまとめてみました。

正確にはもっとややこしい定義があるのですが、この場では要点のみ記載しています。

【卸売業の原価】

医薬品卸を含む卸売業は、自社で商品を製造するのではなく、他社から商品を仕入れています。

この“仕入れ”にかかったお金(コスト)が卸売業にとっての原価であり、正しくは『仕入しいれ原価』と呼ばれます。

【製造業の原価】

商品を製造するために要したお金(コスト)であり、正しくは『製造原価』と呼ばれます。

この製造原価には製造に関わった人たちの人件費、商品を作るための材料費、さらに製造場所での経費(例えば光熱費)などが含まれています。

医薬品卸の場合、製薬会社から商品(医薬品)を仕入れていますよね。

このときに要したお金こそが『仕入しいれ原価』です。

(※医薬品業界的には、仕入原価のことを『仕切価しきりか』と呼ぶことが多いです。)

例えばですが、医薬品卸が製薬会社から100円の薬を仕入れて、110円で取引先に販売したとしましょう。

この場合、仕入原価・利益額・利益率は下記の通りです。

・仕入原価:100円

・売上:110円

・利益額:10円(仕入原価と売上の差額分)

・利益率:約9%(売上の中で占めている利益額の割合)

いかがでしょうか?

原価(仕入原価)と、取引先への売上、そして利益額&利益率。

ここではメチャクチャ簡略化して解説していますが、これらの関係性について、何となく理解できたでしょうか?

これらの内容を踏まえて、読者さんから頂戴したメッセージに載っていた最低原価や、それに伴うMSの価格交渉について解説していきます。

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MSが行っている“価格交渉”の実態

繰り返しになりますが、医薬品卸とは“卸売業”です。

卸売業におけるビジネスでは『安く仕入れて高く売る』のが大原則です。

いかにして高値で医薬品を販売するか?

いかにして多額の利益を稼ぐか?

医薬品卸の営業マンであるMSとは、このような手腕が問われる職業なのです。

しかし!!!

元MSとして断言しますが、MSが普段から行っている価格交渉はとてもシビアです。

先ほどの例で言えば、100円で仕入れた薬を110円で販売し、そして10円分の利益を得る。

…なんてことは至難の業です!!

これまた簡単な例で言えば、100円で仕入れた薬を101円や102円で販売できれば良い方です。

(※もちろん、この辺りは取引先の性質によって変動しますが。)

なぜこんな現象が起こるのかと言うと、取引先(病院や調剤薬局など)からの値引き要求が強すぎるからです。

一言目には『安くしろ』。

二言目には『安くならないなら注文を減らすぞ』または『お宅との取引はやめるぞ』。

このようにして、MSに強烈なプレッシャーを与えてくる取引先は多いのです。

そんな状況であっても、少しでも医薬品を高額で販売する(=可能な限り利益を出す)ために頑張る。

これこそ、MSが常日頃から行っている価格交渉の実態です。

この価格交渉の過程において登場する言葉が『最低原価』なのです。

医薬品卸にとっての『最低原価』とは?

読者さんが知りたいであろう最低原価について、いよいよ本題です。

この記事の序盤で、最低原価とは『医薬品卸にとって赤字とならないギリギリの販売金額』を指す言葉だと書きました。

この最低原価については、医薬品卸にとっての利益源が大きく関わってきます。

さて、医薬品卸にとっての利益とは3種類あります。

1次利益と呼ばれる売差ばいさ

2次利益と呼ばれるリベート。

3次利益と呼ばれるアローアンス。

最低原価という概念を考える上では、特に【リベート】と【アローアンス】が重要になってきます。

それぞれの詳細についてはリンク先の記事を読んでいただきたいのですが、リベート&アローアンスについてザックリ説明すると、ずばり『製薬会社から医薬品卸に支払われる報酬』のようなものです。

それでは、今回も簡単な例を用いて解説します。

100円で仕入れた薬を、90円で取引先に売ったとします。

この場合、一見すると差額である10円分の赤字が発生しているように見えますよね。

しかし、実はそうではないのです!!

ここで大きく関わってくるのがリベート&アローアンスです。

実は100円の薬を90円で販売する際、医薬品卸の社内においては、上記2種類の利益も同時に発生しています。

これまた簡単にまとめると、以下のような感じです。

(※ここでは、リベート&アローアンスをそれぞれ10円と仮定しています。)

・仕入原価:100円

・売上:90円

・リベート:10円

・アローアンス:10円

・最終的な利益額:10円

※(利益額)=(売上)-(仕入原価)+(リベート)+(アローアンス)

いかがでしょうか?

リベート&アローアンスの存在によって、仕入原価よりも安い金額で薬を販売したとしても、何とか医薬品卸側に利益が発生するような仕組みがあるのです。

…とはいえ、リベート&アローアンスにも上限額があります。

ここでの例を考えたときに、もし薬を80円で販売したらどうなるでしょうか?

リベート&アローアンスによる利益補填があったとしても、この場合だと利益額が0円で販売していることになります。

もし80円よりも安い金額で販売してしまえば、その分だけ医薬品卸として赤字になりますよね。

医薬品卸という会社として、赤字になるかどうかというギリギリのライン。

つまり、この場合においては“80円”という金額が『最低原価』なのです。

この最低原価は、医薬品の種類ごとに異なります。

なぜかと言うと、医薬品ごとにリベート&アローアンスの金額が異なるからです。

ちなみにですが、製薬会社が注力している薬ほど、一般的にリベート&アローアンスの金額が高くなる傾向があります。

ヒサシ
ヒサシ

“報酬を出すから、注力品をたくさん売ってほしい”という製薬会社側の意思表示でもあります!

もし仕入原価よりも安く販売したしても、リベート&アローアンスなどを加味すれば利益は出る。

つまり、何とか黒字にはなる。

さらに言えば、リベート&アローアンスの金額が多いほど、最低原価にも余裕が生まれる。

その分だけ、MSとしては価格交渉をやりやすくなる。

まとめると、医薬品卸(MS)にとって最低原価の金額は超重要なのです。

医療機関の目線だと『最低原価』はブラックボックス状態

今まで私がお伝えしてきた最低原価の仕組みについて、実は医療機関側も知っています。

その事実も相まって、医療機関は医薬品卸に対して強烈な値引き要求をしてくるのです。

(※そもそも、病院や調剤薬局では医薬品卸の元社員が働いていることも珍しくない。)

とりわけ、病院からの値引き要求は凄まじく、そのプレッシャーは半端じゃありません。

この記事の冒頭で読者さんからのメッセージを掲載しましたが、あのような状況になることは決して珍しくはないのです。

MS時代のことを振り返ってみて、それだけは断言できます。

ヒサシ
ヒサシ

MS時代に担当していた病院で、偉そうな役職の人たち(参与や相談役など)から呼び出されて“もっと安くしろ”と直談判されたこともあったなぁ…

要するに、医療機関としては医薬品卸にとっての最低原価(=メチャクチャ安い金額)で薬を買えれば、それに越したことはないのです。

しかしながら、医療機関の側からは、医薬品卸にとっての具体的な最低原価を知る術はありません。

MSだって馬鹿ではありませんから、意味もなく具体的な最低原価について医療機関に話すようなことはしません。

では、もし仮に最低原価を馬鹿正直に伝えてしまったら、一体どうなるでしょうか?

医療機関側は『だったら最初からその金額(最低原価)まで安くしろよ!』などと言い出すに決まっています。

その理由は単純明快でして、医療機関としては1円でも安く薬を買いたいからです。

その一方で、医薬品卸は1円でも高く薬を売りたいと考えている。

このようなせめぎ合いがあるからこそ、MSは最低原価について上手く濁しながら価格交渉を行っているのです。

医薬品卸にとって『最低原価の補填』とは?

読者さんのメッセージにもある通り、場合によっては最低原価の下限を引き下げるべく、製薬会社(メーカー)が医薬品卸に対して特別な補填を行うこともあります。

先ほど紹介した例で言えば、本来ならアローアンスとして10円だけのところ、特別に20円とか30円にしてもらうイメージですね。

これまた仮定の話ですが、卸から取引先への納入価格が70円だったとしても、アローアンスが30円あれば、医薬品卸としては赤字とならずに済みます。

一覧で表すと、こんな感じですね。

・仕入原価:100円

・売上(納入価格):70円

・リベート:10円

・アローアンス:30円

・最終的な利益額:10円

※(利益額)=(売上)-(仕入原価)+(リベート)+(アローアンス)

製薬会社が医薬品卸に対して、特別にアローアンスを支払うことで、医薬品卸が不利益を被らないようにする。

その結果として、MS(卸)に安値で薬を販売することが出来るようになる。

この一連の流れを『利益の補填』と呼ぶのです。

(※卸ごとに呼び方が多少異なりますが。)

取引先からの値引き要求があまりにもキツく、なおかつ製薬会社としても自社製品を競合品や後発品に切り替えられたくない場合、このような手法が使われることも多いです。

医薬品卸としては、売上&利益を失いたくない。

製薬会社としても、自社製品の口座(納入先)を失いたくない。

つまり『利益の補填』とは、医薬品卸&製薬会社の利害が一致することによって起こる現象なのです。

ヒサシ
ヒサシ

ただし、MSやMRが利益補填をしてまで口座を守ることは多くないです!

補足ですけど、このアローアンス(利益)の補填に関して、現場のMS・MRの権限だけで実現するのは困難です。

多くの場合、MSの上司、MRの上司、さらには特約店担当者(通称:特担とくたん)など、各方面からの許可を取る必要があります。

言い換えれば、上司陣や特担からの許可が下りない限り、利益の補填云々は実行できません。

お金の流れが絡んでいる以上、最終的には“会社 対 会社”の話になることも多いのです。

ついでに言うと、医薬品卸はともかくとして、製薬会社にとって利益補填は極力やりたくない手法でもあります。

結局のところ、アローアンスという形で医薬品卸にお金を支払うのは製薬会社ですからね。

製薬会社としては、医薬品卸に余計なお金を支払わずに済むのなら、それに越したことはないのです。

最後に:『最低原価』で販売することはMSにとって“悪手”である!

最低原価で薬を販売するということは、要するにただの“安売り”なんですよね。

しかも、利益が出ないレベルの安売りです。

取引先にとっては喜ばしいことであっても、MS(卸)にとっては堪ったもんじゃありません。

ハッキリ言って、不本意もいいところです。

しかしながら、様々な環境要因によって安売りするしかない場面が多いのも事実です。

では、そのような安売りが続けばどうなるか?

これは火を見るよりも明らかで、医薬品卸という業種そのものが衰退することに繋がります。

実際のところ、こういった安売りの弊害として、令和以降は今まで以上に利益を稼げない医薬品卸が続出しています。

その結果として、大手の医薬品卸ですらリストラせざるを得ない状況にまで追い込まれていますからね。

 

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医薬品に限らず、商品とはただ売れれば良いというワケではありません。

販売時に利益が生じてこそ、本当の商売というものです。

そして何より、会社とは利益を生み出すために存在しています。

ヒサシ
ヒサシ

医薬品卸は慈善団体ではありません!

営利企業なのです!

もし利益0円で薬を売るようなら、それは会社として本末転倒であり、決して誉められた行為ではない。

だからこそ、原価・納入価格・利益額のバランスを考え、価格交渉を行うMS(営業)が存在しているのです。

どの取引先に、どの薬を、いくらで売るか。

この辺りはMSごとの裁量に委ねられている部分です。

だからこそMS同士でも意見が割れやすいテーマなのですが、少なくとも私個人としては、薬の安売りには反対です。

極端に安い価格で薬を販売することが、MSとして正しい行動だとはどうしても思えません。

安売りした分だけ利益は稼げなくなり、そのMS自身の査定も悪くなるからです。

実際のところ、昨今の医薬品卸は売上よりも利益を重要視しています。

その影響により、MSも利益重視の評価をされるようになったのです。

 

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よって、最低原価で薬を売るような行為はMSにとって“悪手”でしかないと思うワケです。

ヒサシ
ヒサシ

今はもう“売上”よりも“利益”が求められる時代なのです

大体にして、医薬品卸が会社として利益を稼げなければ、【急配】や【返品】といったサービスは継続できません。

例えばですが、急配1件だけでも、その過程で人的労力・ガソリン代・高速道路代といったコストが必要になります。

そのようなコスト類とは、会社として稼いだ利益の中から捻出されています。

以上のことから、MSがある程度は高値で薬を販売すること自体、実は取引先のためでもあるのです。

こういったことを書くと怒る医療従事者も多いかもですが、これもまた医薬品卸を取り巻いている1つの事実です。

このような事情をひっくるめて、やはり最低原価で薬を売るようなことは良くないなぁと思う次第です。

最後まで読んで頂き、ありがとうございました!

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