こんにちは、アラサーMRのヒサシです。
昨日はメディセオのリストラに関する記事をアップしましたが、一晩経ってから本件に深く関わっているであろうGSK(グラクソ・スミスクライン社)の取引中止影響について考えてみました。
ご存知の通り、GSKは大手外資系の製薬メーカーです。
過去には営業数字の撤廃するなど、何かにつけて医薬品業界にてパイオニア的な方針を掲げてきたGSKですが、これまた今回も凄いことに踏み切りましたね。
まさか、メディセオグループを含む医薬品卸各社との取引を打ち切るとは驚きました。
10月26日にRISFAXにて報道された内容によると、GSKが2021年4月から取引を中止するのはメディセオ・エバルス・アトル・中北薬品・岡野薬品・マルタケ・新生堂・宮崎温仙堂商店といった医薬品卸各社です。
うーん、元MSの私も知らない卸がいくつかあります。(汗)
…と言うより、知名度の高低を問わず、医薬品卸って全国各地に色々な会社があるんだなぁと改めて実感した次第です。
日本国内には医薬品卸が多過ぎる!
…という意見も分からなくはないですね。
さて、こういった医薬品卸の共通点を考えてみたところ、正直言ってよく分かりません。(汗)
会社の規模、従業員数、売上高など、全てバラバラです。
しかし、GSKだって何の理由もなく上記の卸との取引を打ち切るわけではないでしょう。
つまり、取引中止を決断した理由が必ずあるはずです。
コスト削減のためか、プロモーション的な事情によるものか、医薬品卸の対応が気に食わなかったのか、元々会社のトップ同士の仲が悪かったのか。
外野である私が考えるだけでもいくつか思い浮かびます。
つまり、いくら考えても無駄っちゃ無駄です。
…が、私は日頃から卸&メーカーの関係について、何が起こっているのかを勘ぐってしまいます。
今はMRで、なおかつ昔はMSとして働いていたことによる職業病ですかね。(汗)
そこで、GSKの思惑について私なりに考察してみようと思います。
GSKはコストカットを狙っている!
ご存知の通り医薬品卸は製薬メーカーから医薬品を仕入れ、その医薬品を医療機関へと販売することで利益を得ている業種です。
では、医薬品卸における利益の源とは何か?
一般的に、医薬品卸の利益とは大まかに売差・リベート・アローアンスの3種類に分類されます。
医薬品の販売における『売差(ばいさ)』とは?現役MRが解説します!
医薬品業界の『リベート』について解説します!製薬会社の苦しい本音とは?
製薬会社が医薬品卸に支払う『アローアンス』とは?医薬品業界の真実をお伝えします!
ちなみに、売差は1次利益、リベートは2次利益、アローアンスは3次利益とも呼ばれています。
このうち、リベートとアローアンスは製薬メーカーから医薬品卸へと支払われるマージンであり、製薬メーカーにとっては『なるべく支払いたくないカネ』でもあります。
製薬メーカーにとって、リベート&アローアンスとは、詰まるところコスト以外の何物でもありません。
以前、製薬メーカーの物流部門で働いたことがある人から聞いた話なので間違いありません。
不要なコストを削減したい。
会社の経営者としては誰もが考えることです。
コストとは決してゼロには出来ないけど、可能な限りゼロに近づけたい。
そうすることで会社としての収益が向上するからです。
当たり前と言えば、当たり前の話ですよね。
加えて、外資系メーカーの経営陣は日本の医薬品卸に対して懐疑的です。
今回のGSKによるメディセオを含む卸切りの根底には、こういった背景があるのではないでしょうか?
GSKの経営陣の考えは大体こんなところでしょう。
ましてや、繰り返しになりますが日本国内には医薬品卸が数多く存在しています。
極端な話、金額の大小はともかくとして、GSKが10社の医薬品卸と取引しているのなら、10社に対してリベート&アローアンスを支払う必要があるのです。
仮にですが、A製品に対して1社あたり毎月100万円のリベートを払っているとします。
すると、A製品に関して10社と取引したら【10社】×【100万円】=【1,000万円】です。
1,000万円もあれば、MRを1人雇えますよね。
このご時世、各製薬メーカーがMRをリストラしまくっています。
MRのリストラ=人件費削減をしているのだから、並行して物流コストもカットされて然るべきです。
MRをリストラしている傍ら、取引している医薬品卸各社に対しては、今まで通りリベートやアローアンスが支払われている。
GSKとしては、この状況が面白くなかったのでしょう。
…かと言って、日本国内でGSKの薬剤を流通させるためには、何だかんだ言って医薬品卸の力が必要です。
じゃあ、取引する医薬品卸を見直して、リベート&アローアンスなどのコストを費やすのに相応しい卸とだけ取引すれば良い。
むしろ、この機会にGSKにとって不要な医薬品卸を見極め、リベート&アローアンスを出来る限りカットする契機にしたい。
その結果として、メディセオと地方の地場卸数社が見限られた…といった流れではないでしょうか。
極端な話、GSKに限らず製薬メーカーにとっては、自社の医薬品をしっかりと流通させてくれるなら、どこの医薬品卸だって良いのです。
だったら、しっかりと流通なり販売促進なりしてくれる医薬品卸だけにリソースを割きたいと考えるのは当然のことです。
それにしても、この合理的な決断…さすがGSKって感じがします。
この記事の冒頭でGSKはパイオニア的な方針を掲げていると書きましたが、個人的には『よくもまあ、ここまで思い切った決断したよな』って思っています。
私が就活生だった頃に受けたGSKの選考も一風変わったものでしたが、こういった他社が行わないような方針を掲げる辺り、ザ・外資系メーカーという感じがします。
学生時代のMR就職活動 体験記③【グラクソ・スミスクライン編】
取引卸が減っても医療機関&GSKは困らない
先ほどはコストカットの観点からGSKの考えを推測してみました。
私の推測が当たっているかどうかはともかく、取引卸を絞ることはGSKにとってはメリットだらけです。
繰り返しになりますが、今まで支払っていたリベート&アローアンスの分が浮くわけですから、その分だけ収益が向上します。
次に、医薬品卸側とリベート&アローアンスを交渉する人間(特約店担当者など)の業務負担も減ります。
その上、GSKのMR目線で考えたら仕事の中で付き合うMSも減りますので、これも業務効率の向上に一役買うことでしょう。
GSKのMRはメディセオ&地場卸との取引中止についてどう思っているのか?
取引中止となる2021年4月前後のタイミングは、卸内での在庫調整などで一悶着あるかも知れませんが、それ以降は先述したメリットが待っています。
つまり、GSKにとっては合理的かつ都合が良いシナリオというワケです。
(※そもそも、メリットが無ければ卸切りなどという決断は出来なかったでしょうけど。)
例えば、メディセオを含む4大卸が熾烈なシェア争いをしている東京の市場について考えてみましょう。
来春以降にメディセオと取引が無くなったとしても、他の4大卸たるアルフレッサ・スズケン・東邦がしっかりと薬の安定供給をしてくれるでしょうから、GSKも医療機関も全く困りません。
医療機関側からしたら卸同士の価格競争が弱まることで、GSK品目を安く買い叩けなくなる可能性はありますが、薬の安定供給という意味では特に心配はないはずです。
メディセオの高シェア先では多少の混乱が起こる可能性もありますが、それはあくまで一時的な問題でしょう。
卸Aがダメなら、卸Bや卸CからGSKの薬剤を買えばいい。
医療機関側にとっては、ただそれだけの話です。
では仮に、GSKの薬剤をメディセオから買っており、なおかつアルフレッサやスズケンとも取引している施設があるとします。
そういった施設の考え方について推測してみます。

このように、メディセオ以外の医薬品卸と取引していれば特に問題はありません。
医療機関にとって、GSKの薬剤について『必ずメディセオから買わなければいけない』などというルールはどこにもありません。
そして、GSKにとっても『自社の薬剤を必ずメディセオ経由で納入しなければならない』などというルールはありません。
いかにメディセオが大手医薬品卸の一角と言えど、ライバル卸であるアルフレッサ・スズケン・東邦・地場卸などがいれば、安定供給には差し支えないでしょう。
むしろ、メディセオ&一部の地場卸の脱落により、卸同士の価格競争が緩和されるとの見方もできます。
4大卸による2019年の談合問題以降、全国各地で卸同士の価格競争が激化しているのは事実です。
卸同士の横の繋がりが消えたのだから、まあ当然の流れですよね。
このお陰で、市場実勢価格が凄まじいペースで下落しています。
GSKに限ったことではありませんが、弊社の薬剤も卸同士の価格競争により、納入価格がどんどん下がっています。(汗)
アンタたち、どこまで安売りすれば気が済むんだ!?
そんなに安い価格で利益あるの!?
…って言いたくなるくらいの価格競争をしています。
このような卸同士の価格競争は、製薬メーカー側にとっても悩ましい問題です。
市場価格が下がった分だけ、次回の薬価改定で大幅な薬価ダウンに繋がるのだから、まさに百害あって一利なしです。
しかし、GSKは取引卸を減らすことで、多少なりとも自社医薬品についての価格競争を緩和させることができるかも知れない。
そう考えてみると、GSKとしては卸同士で価格競争をした結果、自社医薬品の薬価が大幅に下落することを抑えるために、今回の卸切りに踏み切ったのかも知れませんね。
地方の地場卸とは付き合う価値無しと判断した?
ところで、中北薬品やマルタケにおけるGSKの売上って年間どれくらいなんですかね?
メディセオは年間で約520億円の売上があるとRISFAXに記載されていましたが、地場卸の規模を考えると、少なくともメディセオ以上にGSK品目を売っているということはないはずです。
むしろ、下手をしたら年間で数億円~数十億円というレベルかも知れません。
そんな細々とした売上しかないのに、GSKが地場卸各社と取引する意味ってあるんですかね?
ハッキリ言って、GSKの経営者からしたら付き合う価値のない会社と判断しても不思議じゃないです。
売上が低い分、支払っているリベート&アローアンスも安いと思いますが、その安い金額ですら惜しいと思ったのでしょうか?
地方とはいえ、メディセオ以外の4大卸…つまりアルフレッサ・スズケン・東邦の3社がいれば薬の安定供給には問題ない気がします。
だったら、メディセオ共々、この機会に取引を打ち切ってしまえば良いということでしょうか。
あるいは、現場のMRや特約店担当者から、地場卸に対する不満の声でも挙がっていたのでしょうか。
それとも、さらに別の深い事情でもあるのか。
真実は分かりませんが、GSKが彼らのことを『不要な卸』と判断したのは事実です。
そして、不要と判断したのは相応の理由があるからであり、この決定は今後も覆ることはないでしょう。
最後に:今後も製薬メーカーによる卸切りは加速するだろう
今回の一件で、医薬品卸と製薬メーカーとの力関係は大きく変動するでしょう。
2019年にノボノルディスクファーマがメディセオとの取引中止を発表したとき、私はいつか必ず『第二のノボノルディスクファーマ』が現れると思っていました。
ノボ 取引卸を削減へ 薬価制度改革など市場環境悪化で物流にメス 他の外資に波及の可能性も
その製薬メーカーが外資系大手のGSKだったのは意外でしたし、しかも520億もの売上があるメディセオとの取引を打ち切るのは予想外でした。
ですが、むしろ今後は売上の大小とは関係なく、製薬メーカー側が卸切りを行っていく風潮が広まっていく気がします。
二度あることは三度ある…とも言いますからね。
製薬メーカーにとってはコスト削減のメリットが大きいですし、加えて医療機関側のデメリットは特に無いかと思います。
コスト削減の重要性が叫ばれている今の医薬品業界において、GSKが敢行した今回の卸切りは愚策どころか、むしろ妙策です。
この妙策を真似する製薬メーカーは、いずれ必ず現れます。
この状況では、メディセオや地場卸のみならず、他の医薬品卸にとっても戦々恐々といったところではないでしょうか?
結局のところ、医薬品卸は製薬メーカーと取引があってナンボです。
なおかつ、医薬品卸は製薬メーカーからの助けなしでは立ち行かない業種なのです。
私にも経験があるのですが、医薬品卸で働いていると自分たちの給料がどこから出ているのか忘れがちになります。
医薬品卸の社員が給料を貰い、メシを食べ、家族を養っていけるのは、製薬メーカー各社がリベート&アローアンスを支払ってくれているお陰です。
そして、リベート&アローアンスは善意で支払われるモノではなく、ビジネスの対価として支払われているカネです。
ついでに言うと、そういったカネを支払う・支払わないといった主導権は、医薬品卸ではなく製薬メーカー側にあります。
そう考えると、医薬品卸にとって製薬メーカーもまた顧客であるわけです。
よって、医薬品卸が今後生き残るためには、『製薬メーカーから選ばれる卸』を目指していかないとダメなのでしょうね。
製薬メーカーから選ばれなかった医薬品卸は取り扱える薬剤が減っていく。
それは即ち、医薬品卸としての売上金額・利益金額が減ることを意味しています。
その状態が続けば、医薬品卸の経営は苦しくなり、リストラを行ってコスト削減を行わざるを得なくなる。
メディセオが希望退職者を募集!製薬メーカー数社との取引中止が関係しているのか?
このように、選ばれる卸・選ばれない卸の明暗を分けるのは製薬メーカーです。
いくら医薬品卸の社内では優秀な人材であっても、会社そのものが製薬メーカーから見放されてしまっては、活躍の場はどんどん減っていきます。
一介の社員…つまり、個人の力で組織を覆すことは出来ませんからね。
製薬メーカーによる取引卸の絞り込みが進むほど、医薬品卸に見切りをつけて転職していく人が増えるような気がします。
きっとこれが、医薬品業界における今後の流れなのでしょうね。
この流れに乗った卸が生き残り、流れに乗り遅れた卸は廃れていく。
そのことを改めて実感した一幕でした。
最後まで読んで頂き、ありがとうございました!
コメント