こんにちは、元MSのヒサシです。
今回はMSが行う仕事の1つである『返品処理』という業務について記事にしてみました。
この返品処理という行為は、世の中のMSにとって“嫌な仕事”の代表格でもあります。
それはなぜか?
返品が忌み嫌われる理由としては、ざっとこんな感じです。
大変かつ手間がかかる仕事である反面、それを上手くこなしたところで誰からも褒められません。
つまり、返品処理とは医薬品卸の社内にて、決して評価される類の仕事ではないのです。
それどころか、むしろ“やって当たり前”の業務といった位置付けです。
そんな仕事で不手際があった日には、それはもう社内でメチャクチャ怒られます!
そして何より、取引先は次から次へと返品を依頼してきますからね。
1つの薬を返品処理している最中に、全く別の薬についても返品依頼されるとかザラにあります。
もう本当にキリが無いんですよ。(汗)
しかも、そのような面倒くさい依頼をMS(卸)は無償で行っています。
【急配】と並んで、業界内では“過剰サービス”との呼び声も高いです。
そこで、本日は全国のMSを苦しめている『返品処理』というテーマで記事を書いてみました。
いつものように、私自身の実体験も併せて紹介していきますので、MSを取り巻く返品の実態について、少しでも参考にして頂ければと思います。
MSと返品に関わる理不尽な現実
そもそも医薬品卸における『返品処理』とは何か?
これは大きく2つの業務に分けられます。
その1:取引先から医薬品卸への返品
その2:医薬品卸から製薬会社への返品
これら2つとも、現場のMSにとっては負荷のかかる業務です。
しかも!!!
いわゆる“利益を生まない業務”ですので、MSにとっては面白味の欠片もありません。
このような記事を書いている私自身、『返品処理』について考えると嫌な思い出が続々と甦ってきます。
取引先といい、製薬会社といい、そして自分の会社といい、自分が得する(損しない)ための主張しかしないのです。
まさに仁義なき戦いです!!(汗)
現場のMSからしたら、
仁義って何?美味しいの?
…みたいな感覚です。
この返品というものを巡って、MSはあらゆる方向から板挟みにされて苦しみます。
その理由は大きく下記の3つあります。
①:返品の手続きが面倒くさい
②:再販先が見つからない。
③:製薬会社が引き取ってくれない
MSが苦しむ理由としては大体こんなところです。
①~③まで、どれもこれも労力的・時間的・精神的にキツいものがあります。
何かとエグい事情が付きまとう『返品処理』ですが、この先は私の実体験を踏まえて書かせていただきます。
① 返品の手続きが面倒くさい
返品の依頼を受けた瞬間、とにかく“面倒くさい”という感情が沸き起こる。
これはもう、文字通りの意味です。
一度は取引先に買ってもらったものを、わざわざ引き取りに行くわけですからね。
もうその時点でMSのモチベーションはダダ下がりです。
そして当たり前の話ですが、返品を受けるということは、自社の売上と利益がマイナスになることを意味します。
つまり、医療機関に直接伺って医薬品を回収するという時点で、“1円の利益も生まない仕事”に時間と労力を割くことになるわけです。
常に売上・利益の数字で評価されるMSにとって、これは凄くキツいのです…(汗)
さらに厄介なのが、返品対象の薬が『本当に自社から販売したものかどうか』ということを確認しなくてはならない点です。
例えば、ある病院が“医薬品X”を“卸A”と“卸B”から交互に購入していたとします。
(※価格などの問題により、医療機関が複数の卸から同じ薬を買うことはよくあります。)
医薬品Xについて卸Aが返品を受ける際、卸AのMSは過去の伝票内容を見て、
『“医薬品X”が間違いなく“卸A”から納入されたモノである』
…ということを確認する義務があるのです。
医薬品卸の伝票には、自社から納品された薬の情報が全て記載されています。
具体的には、こんな内容ですね。
・ロット(製造番号)
・納品日
・納品時の金額
MSはそれら情報を参考にして『返品依頼を受けた現物』が『本当に自社から納品されたモノかどうか』について照合しないとダメなのです。
医薬品の現物を社内に持ち帰り、過去の伝票データを呼び出す。
そのデータの内容と、現物に印字されている使用期限・ロットなどを確認する。
これらの手順を、返品依頼された医薬品の1つ1つについて行うのです。
MSにとって、これら一連の作業がとても面倒なのです!!
なぜMSはそんな面倒なことをするのか?
その理由は簡単でして、卸AのMSが間違って『“卸B”が納入した“医薬品X”』を返品処理してしまったら、卸Aが損をするからです。
この場合、言い換えると卸B(=ライバルのMS)が得することになります。
では、もし『卸Bから納入した医薬品X』について、卸Aが返分処理したらどうなるでしょうか?
きっと卸BのMSはこのように思うことでしょう。
…と、こんな具合にライバル卸のMSが喜ぶのです。
常にライバル卸との競争を強いられているMSにとって、これは大きな痛手となります。
よって、担当MSが手抜きして適当な処理をしていると、後々になって何かと不都合が生じることがあります。
返品処理とは1円の利益も生まない反面、油断していると利敵行為となってしまう可能性がある“怖い仕事”なのです。
② 再販先が見つからない
これも返品処理の厄介な一面です。
タチの悪い取引先は『使用期限が切迫している薬』を平気で返品依頼してきます。
それこそ、数年前に卸から購入しておいてそのまま不動在庫となり、使用期限が残り2~3ヵ月になってしまった薬を返品依頼されることも珍しくありません。
大体にして、数年前に買ったモノを返品しようとしてくる時点でおかしいですよね。
かつて私がMSだった頃、このような商習慣が不思議で仕方ありませんでした。
てゆーか、数年前に買った薬を今さら返品したいとかナメてるだろ!!
…などと思うことが度々ありましたので。(汗)
でも、そんな奇妙な商習慣がまかり通ってしまうのが医薬品業界なのです。
そして!!!
どんなにタチが悪くても、MSにとって取引先はお客様。
よって、返品依頼を断るなんてことはまず不可能です。
さて、返品処理した薬は当然ながら卸の在庫になります。
この時点で取引先には返品伝票(通称:赤伝)を持っていくことが可能になりますが、この前後のタイミングでMSとしては大いに苦しみます。
在庫とは販売して初めて利益を生むモノです。
そして、販売ができずに使用期限を迎えた薬などは売れるはずがありません。
よって、そのような薬は廃棄処分するしかないのです。
『廃棄する』ということは、その薬を製薬会社から仕入れるために支払った金額が“100%無駄になる”ということです。
以上のことから、MSは『使用期限が切迫している薬』を返品依頼された場合、その薬を、何が何でも売らなければいけません!
このような場合、上司からの“何とかしろ”という圧力が半端じゃありません。
繰り返しになりますが、売らなければその薬は廃棄されるのです。
つまり、医薬品卸という会社が丸々損をしたことになる…
そんなことは上司(会社)目線で考えれば、何としても避けたいわけです。
よって、MSとしては『使用期限が残り僅かでも、その薬を使ってくれる医療機関を探す』という行為を強いられます。
このような事情により、MSはどこにあるかも分からない再販先を探す作業に必死で取り組むのです。
しかし!!!
使用期限が切迫しているような薬を買い取ってくれるような取引先は中々いません。
だから大変なのです!!
確かに、再販先が上手く決まれば問題ありません。
その一方で“再販先を探す”という行為には、それ相応の時間&労力が必要です。
そして、結局のところ再販先が見つからず、薬が期限切れを迎えてしまった日には上司から雷を落とされます。
そんな展開になってしまったら、MSとしては只々辛いだけです。
③ 製薬会社が引き取ってくれない
MS(医薬品卸)にとって『取引先から引き上げた薬を製薬会社(メーカー)に返品する』というのは最後の手段です。
再販先がどうしても決まらない。
でも、医薬品卸の社内で廃棄処分するわけにはいかない。
となれば、元々の仕入れ先である製薬会社に返すしかないのです。
ですが、製薬会社が期限切迫品を引き取ってほしいと頼んでも、大抵は断られてしまいます。
特に、外資系の製薬会社は返品引き取りについてメチャクチャ厳しいです。
でも、製薬会社の目線で考えれば当然のことなのです。
簡単にまとめると、このような理屈で断られてしまうのです。
私は現在MRとして働いているので、製薬会社側の事情をMSだった頃以上に理解しています。
ハッキリ言って、製薬会社も利益状況が厳しくなってきているのです。
何しろ、どこの製薬会社も医薬品卸への【リベート】や【アローアンス】を減らしているご時世です。
ベーリンガーが医薬品卸へのアローアンスを減らそうとしている!?
製薬会社からすれば、医薬品卸の在庫を引き取ってあげるような余裕などないのです。
今でもたまに会ったこともないMSから電話が来て、このような相談をされることがあります。
お宅でこの薬を引き取って頂けませんか?
再販先がなくて困っているんです…。
返品の大変さを知っている元MSとして、現役MSを助けてあげたい気持ちはあります。
しかし、少なくとも私の会社は期限切迫品のような不良在庫を引き取るようなことはしていません。
従いまして、私は心を鬼にして、このような回答をしています。
そのようなご相談に応じることはできません。
申し訳ありませんが、御社の中で再販先を探してください。
ぶっちゃけた話、このように断るのは心苦しいです。
しかしながら、一介のMRが会社の方針に逆らうことなど出来るはずもない。
よって、MRの立場としては断るしかないのです。
個人的にはMSを助けてあげたいのは山々なのですが…
ご覧の通り、中々そうもいかない事情があるのです。(汗)
MSだけでなく、MRとしても辛いところです。
廃棄品を出してしまったMSの末路
どうしても再販できる先が見付からない。
製薬会社(メーカー)も引き取ってくれない。
その後、不良在庫化した薬が期限切れを迎え、廃棄されることが決まった。
そうなると担当MSはどうなるでしょうか?
お察しの通り、社内でメチャクチャ怒られます!!
上司から呼び出され、罵倒混じりの説教をされるのです。
…というワケで、私自身がMSだった頃に体験した一部始終をご紹介しましょう。
この辺りの説教について、上司の種類によって多少違うかも知れません。
ですが大体の場合、MSはキツい言葉を浴びることになります。
廃棄処分=利益損失ということですから、上司からしてもMSの行動を看過できないのは理解できます。
だからって、そこまで怒らなくたっていいだろ?
…って感じですけどね。(汗)
そこまでしてMSを叱るなら、その後で杜撰な在庫管理をしていた取引先にも赴いて、医者やら薬剤師やらも叱りつけてやって欲しいものです。
何はともあれ、MSは返品について安請け合いすると、社内で自分の首を絞めることになります。
間違っても廃棄処分なんて展開にはならないよう、MSとしては細心の注意を払う必要があるのです。
返品の手続きは事務職・倉庫係・管理薬剤師にとっても大変である!
返品関係の業務とは、MSが1人だけで完結させることは出来ません。
まず、返品の可否については管理薬剤師によるチェックが不可欠です。
そこで返品処理してOKとなった場合、返品伝票の発行には事務職の人たちが関わってきます。
伝票上で返品処理が済んだ後は、倉庫係の人たちが返品された薬を保管庫に戻す(並べる)という作業を行います。
医薬品卸の会社によって多少の違いはあるかもですが、MS以外の内勤職たちも関与するのが返品という業務なのです。
これもまた、医薬品卸にとって返品が厄介なポイントなんですよね。
何しろ、返品依頼された薬の1つ1つに対して、これらの行程が求められるのですから。
事務職にせよ、倉庫係にせよ、管理薬剤師にせよ、決して暇なワケではありません。
それどころか、時間帯によってはMSより忙しいこともフツーにあります。
営業所にもよるけど、特に事務職の人たちは忙しいことが多いです!
そんな彼ら・彼女らにとって、返品なんてモノは少ないに越したことはありません。
だって返品が増えれば増えるほど、他の業務に割く時間が削られてしまうのですから。
場合によっては、社内での返品処理が追い付かずに、残業を強いられることだってあります。
いかがでしょうか?
返品によって苦しんでいるのは、決してMSだけではないのです。
医薬品卸で働いている内勤職にとっても、返品は歓迎できない存在であり、労力的・時間的・精神的にもキツいものがあります。
まとめると、返品処理とは医薬品卸の社員1人1人の“努力”あるいは“犠牲”の上に成り立っている業務だと言えるでしょう。
取引先の決算時には返品量が激増する!
医薬品業界において、月末は返品量が一気に増えるタイミングでもあります。
特に、毎年3月はその傾向が顕著です。
なぜなら、医薬品卸と同じく取引先にも決算があるからです!!
決算の際、取引先としては在庫金額を減らすために、不要な薬を医薬品卸に返品しようとしてきます。
経営的な観点から考えてみると、取引先にとっては仕方のないことなのかもしれません。
しかし、如何せん量が多過ぎる。
それこそ【オリコン】の中が埋め尽くされるほどの量を返品依頼される場合も珍しくありません。
もうね、本当に呆然とするくらいの量なんですよ。
特に調剤薬局。
1軒の取引先だけで、20品とか30品もの返品を一気に依頼してくるとかフツーにあります。
酷い場合だと、50品目くらいに及ぶこともありますからね。
どんだけ在庫管理が下手なんだって話です!!
付け加えると、MSにとっては再販するのが難しい薬が混じっていることも少なくありません。
使用期限が切迫している薬。
包装が何世代も前の薬。
経過措置となっている薬。
要するに『こんなもん今から再販できるワケがねぇ!!』と叫びたくなるような薬が結構あるワケです。
それらが一気にMSの手元へと舞い込んでくるときた。
そんな返品の山を見て、MSとしては途方に暮れるだけです。
ハッキリ言って、このときの絶望感はMS経験者じゃないと理解してもらえないと思います。(汗)
しかも3月ともなれば、このような返品を多種多様な取引先が同じようなタイミングで依頼してくるのです。
そりゃあ、MSとしては取引先に文句の1つでも言いたくなるってもんです。
MSにとって、無理ゲーにも程があるので。(汗)
しかしながら、MSにも立場というものがあります。
返品の依頼量が多いからといって、取引先のことを無碍にはできない。
よって、渋々と、そして嫌々と、憂鬱な返品関連の作業を繰り返すことになります。
つまりMSにとって、3月は“返品地獄”なんです!!
MS目線では1品や2品くらいの返品ですら面倒なのに、2桁以上の返品量ともなるとマジで業務過多に陥ります。
あまりも大変過ぎて、MSとしての通常業務を行う余裕なんてとてもありません。
何しろ、先ほどまでお伝えした返品に関する作業について、1つ1つの薬に対して行うのです。
ただひたすら、再販先を探し、メーカーへの返品交渉を行う。
しかも取引先の決算日に間に合わせる必要があるので、〆切に関するプレッシャーもある。
言葉にすると簡単そうに見えるかもしれませんが、これらはマジで精神的なダメージが大きいです。
付け加えると、事務職・倉庫係・管理薬剤師にとっても尋常ではない負荷が掛かっています。
MSのみならず、内勤職の人々も苦しむのが返品発生時の通例であり、まさに業界内の悪習と言わざるを得ない。
MS時代の経験を振り返ってみて、そう思わずにはいられません。
まとめ:MSにとって返品処理は大変な仕事である!
今回はMSが行う『返品処理』について色々と書いてみましたが、いかがでしたでしょうか?
MSにとって、返品は本当に大変な仕事です。
マジで、心の底から、気が滅入るような業務です。
そのくせ1円の利益も生まないわけですから、モチベーション的にも好ましくありません。
しかし、MSであれば多かれ少なかれ、必ず経験するのがこの『返品処理』という仕事です。
私はMSだった頃、この返品に関する業務には幾度となく苦しめられました。
それこそ、MS時代に嫌いだった業務を挙げろと言われたら、返品関連の業務は確実にトップ3に入ります。
(※他には【詰め込み販売】も大嫌いでしたが、返品業務とはストレスの種類が少々異なります。)
取引先の中には、在庫管理が下手な病院・開業医・調剤薬局も結構あります。
そういった施設を多く担当しているMSは大変です。
私の先輩MSなんかは1日中、再販先を探したり、製薬会社のMRや特約店担当者に返品交渉しているような人もいましたからね。
MSも色々な意味で必死なのです!!
ご存知の通り、医薬品卸とは薄利多売のビジネスをしています。
よって、ただでさえ少ない利益額を減らすような医薬品廃棄は、会社にとって大ダメージなのです。
だからこそ、廃棄処分にも繋がる可能性を秘めている返品は厄介なんですよね。
利益を稼ぐのが仕事であるMS(営業)としては、決して歓迎できない存在。
その一方で、疎かにするワケにもいかない存在。
それが返品の実態なのかなと。
この辺りが【MSという職業が激務と呼ばれる】所以であるようにも思えます。
以上、MSを取り巻く返品事情について、少しでも参考にしていただければ幸いです!
最後まで読んで頂き、ありがとうございました!
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